3館合築に異議あり! 雅楽から見る「市民フォーラム」の必要性 「合築複合化案」の再考を求める市民の会 代表  鈴木治夫さんにインタビュー

図書館・公民館が駅から遠く、かつ狭くなる計画を許さない――。

西東京市で、田無駅南口すぐにある中央図書館・田無公民館を移転し、北口から徒歩約8分にある市民会館と合築複合化をする計画が進むなか、10月下旬に市民団体が発足し、反対運動を行っています。

12人の委員による基本プラン策定懇談会は来春にも方向性を示そうとしていますが、市民団体は市長に白紙撤回を求める要望書を提出するなど、計画そのものに異議を唱えます。

その主張を、団体の代表で、雅楽の楽器・笙(しょう)を作る職人でもある鈴木治夫さんに聞きました。

鈴木治夫さん

「寝耳に水」で納得いかない

――反対の理由は何でしょうか。

「市長への要望書で挙げたのは『学習権の侵害』などの3つですが、個人的には寝耳に水の話で驚いたということが根底にあります。

市では、計画の理由に『公共施設の総量規制』などを挙げていますが、背景に、庁舎統合問題があることは明らかです。

市が今年3月に策定した『庁舎統合方針(案)』には、はっきりと、中央図書館・田無公民館の場所に保谷庁舎の一部機能を暫定的に配置することが書かれています。

つまり、築47年の保谷庁舎の今後について慌てて善後策を講じ、図書館・公民館がその犠牲になったと受け取れます。

もともとこの図書館・公民館は『買い物帰りに寄れるように』とあえて駅そばに造られた経緯があり、理念に反する計画を受け入れるわけにはいきません」

 

問題は立地?

――立地が重要だということですか?

「図書館の2013年度のデータで、1日あたりの利用者数の比較表があります。

分室等を除く6館のうち、駅そばにある中央・柳沢・ひばりが丘・保谷駅前は1000人以上。最多の中央は1869人です。

ところが駅から離れる谷戸は532人、芝久保は378人になっています。立地の重要性が分かります」

「ただ、今回のケースは、立地だけではありません。複合化で、各館の規模が小さくなることが大問題なのです。

市民会館と公民館の設備は類似性が高いので共有化すればよいという意見がありますが、両者の役割はまったく違います。中身の見えないなかで器の話が先行することに危機感を覚えます。市民は誰も得をしない計画です」

 

じっくり時間をかけて話し合いたい

――何か代案があるのですか?

「私は『市民フォーラム』を開き、市民の意見を広く集めることを主張しています。

12人の委員による『懇談会』が開かれていますが、公募市民はいませんし、結論を急いでいるように見えます。そうではなく、2、3年かけてまずは意見を出し合い、そこからさらに具体的な案へまとめていく作業が必要です」

 

――市民が参加しますか。一部の人だけでは?

「そこは20万いる市民を信頼するしかありません。少なくとも今回の問題は、図書館を始め、各館を日頃から利用している人が多く、市民の関心を集めるはずと確信しています」

 

「異質の調和」「多文化共生」

――意見が多すぎてまとまらない、という懸念もありますが。

「それは今も同じです。懇談会の12人の委員ですら、『公会堂は存続を』『図書館を大きくすべきだ』などと意見が割れています。どうせ割れるなら、そこに多くの人が参加したほうがいい。

私は雅楽の笙という楽器を作る仕事をしていますが、笙の音は、西洋音楽でいう『不協和音』なんです。

しかし、東洋の歴史でみれば、1500年以上も前に『よい音色』と定着した澄んだ和音です。

雅楽では『異質の調和』という言葉があるのですが、笙、篳篥(ひちりき)、龍笛(りゅうてき)などが別の音階を奏で、別々のもので調和をはかるということをしています。

これは雅楽の話だけではなく、たとえば国際交流という言葉も、今は多文化共生というものに深化しています。

主張をぶつけあう不協和音ではなく、市民みんなで考えていく『異質の調和』は必ずできるはずです」

 

文化継承のために「教育」が不可欠

――図書館・公民館の役割が変わってきたという面はありませんか。

「確かに、民営化や公民館の廃止が世の流れかもしれません。しかし、その必要性は変わっていないと思います。

その点では、直営を続ける西東京市を評価します。

私はアジアの古楽関係者と接することが多いのですが、彼らの歴史を聞くと、文化継承には教育が不可欠なのだと痛感します。

たとえばカンボジアでは、フランスの植民地にされたときに職人たちが手首を切り落とされているのですね。そうすることで、独自の文化の継承が妨げられるのです。そして、そこに占領者の文化が植え付けられる。また、余計な知恵をつけられると困るから、教育もされなくなるんです。

結果として、次世代に固有の文化が伝わらなくなる。

こうした事例は世界史であふれています」

 

――それを地域にあてはめると?

「地域にはたくさんの固有の文化や歴史があります。それをしっかり見つめて、守っていかなければなりません。

西東京市でも、下野谷遺跡は5000年もの歴史があるんですね。

それを地元で体感できるのは貴重なことです。

笙を作る立場でいうと、この楽器は3000年前にできたと言われています。

ですが、突然完成するわけはないので、恐らくは縄文時代の頃から原型になるものが試行錯誤されてきたはずなんです。

そういうことを一人で楽器を作っていると、『昔の人はこうして作っていたのかな』『3000年前はどうしていたのだろう』と想像します。

歴史がつながっていることを感じるんです。

そんな身からすれば、西東京市の図書館・公民館のことぐらい、みんなで考えれば良い案が出るよ、と楽観的な気分になりますね。1年、2年で結論を出そうなどと慌てる必要はありません」

 

市民参加で考えたい

同団体の正式名称は「田無公民館・中央図書館の市民会館への『合築複合化案』の再考を求める市民の会」です。

現在、賛同者は鈴木さんのほか38人です。

合築複合化については、市議会も9月議会で「時間をかけて慎重に検討することを求める決議」を可決しています。

なお、次回の「懇談会」は18日(金)午後6時から田無庁舎で開かれます。

(※編集部注 イベントは終了していますが、地域情報として掲載を継続しています)

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