年々増加している高齢者の「心不全」。特に冬場は発症が多く、救急搬送や入院が他の季節の約1.5倍という現実があります。生命に関わることもある「心不全」への対策を、地元の救急救命の要でもある公立昭和病院の循環器内科部長・田中茂博先生に伺いました。
心臓のポンプ機能低下で血液循環が不良に
――心不全とは、どのような病気なのでしょうか。
「体内の血液循環の元となる、心臓の“ポンプ機能”が加齢や病気等の原因で低下し、血液が体内に十分に供給されなくなった状態で、その結果として身体にさまざまな症状が現れるのが『心不全』です。
肺に血液がうっ滞し息切れしやすくなったり、各臓器に十分な血液がいきわたらないことで疲れやすくなったりします。
機能低下が進むと、呼吸困難をきたしたり、腎臓で尿を作れなくなってむくみを生じることもあります」
死亡原因上位の「急性心不全」とは
――死亡原因で「急性心不全」というのをよく見かけますが。
「心臓の機能低下が急激に進んで、いきなり症状が出るのを“急性心不全”、機能低下が徐々に進み、慢性的に症状が現れるのを“慢性心不全”と分類しています。
それぞれの代表的な症状は表1をご参照ください。
このような症状はすべての患者さんに現れるわけではなく、重症度や進行度合いによって異なります。
また、慢性心不全でも何らかの原因で急激に症状が悪化することがあり(急性憎悪)、この場合は急性心不全に分類されます。
救急搬送される患者さんはほとんどが急性心不全で、重症の場合や発症からの時間によっては生命に関わることがあります」
高齢者はリスクが高い
――心不全になる原因は。
「いわゆる心臓病、心筋梗塞や狭心症、弁膜症、先天性の疾患などの既往は心不全になる原因です。
高血圧も原因となり、ストレスや過労などが加わると心不全を悪化させることになります。
近年は加齢による心臓機能低下で心不全になる高齢者が増えています。
心臓はほとんどが筋肉なのですが、加齢とともに硬くなり、しなやかさが損なわれポンプ機能が低下してしまいます。
ですから心臓病の既往が無く、高血圧でもない人でも70歳以上の方は心不全のリスクがあることを知っておいてください」
心臓は機能の悪化度と重症度が一致しない
――検査や診断はどのように行うのですか。
「心不全の症状の有無と、心臓の画像検査を総合的に行います。基本となるのは『心エコー(超音波検査)』で心臓の動きを観察し、血液を十分に送り出せる動きかどうかを診断します。
ただ、心臓は腎臓などと異なり、その状態と症状が必ずしも一致しないという特徴があります。心臓の機能低下レベル=重症度、とはならないのです。
そこで重要となるのが、下表の『心不全の重症度』です。心臓の動きが良くない状態でも、軽い症状だったり、その逆のケースもそれほど珍しくありません」
治療について
――治療はどのようにするのですか。
「治療は症状の改善が第一の目標となります。つまり重症度ⅣだったらⅡやⅠに改善する治療です。
救急搬送はほとんどが重症度ⅢかⅣで、入院治療でⅡ~Ⅰに改善し退院されることが多いです。心不全の原因が他の心臓病の場合はそちらの治療も併せて行います。
重症心不全の場合、個々の適応に応じて補助装置等を検討することもあります」
一度発症したら、再発しないことが大切
――完全に治りますか。
「他の臓器もそうですが、心臓も失われた機能を完全に回復することはできません。心不全とは生涯付き合うことになります。
心不全は発作を繰り返す傾向があります。治療・入院で症状が改善されても、機能が元に戻ったわけではないため、カゼをひいたり、薬を飲み忘れたりすると発作が再発することがあります。
数年間で5~6回救急搬送された高齢の患者さんもいて、その度に機能が低下し、最終的には治療しても症状が改善されない状態になってしまいます。
一度発症したら、心不全をしっかり理解し、再発防止に努めることが大切です」
【取材協力】
公立昭和病院