加齢や生活習慣病などで発症する「不整脈」。その中でも、高齢者に多い「心房細動」は、重篤な脳卒中を引き起こす恐れがあり、早めの対処が必要です。
実はいま、心房細動による脳卒中の予防に高い効果が認められる新薬が出て、治療の現場に変化が生まれています。
最新医療や新薬の注意点、心房細動と脳卒中についてなどを、地域医療を支える島村記念病院の循環器専門医・米良尚晃先生にお聞きしました。
加齢や生活習慣で誰でもなりうる心房細動
――まず、不整脈について教えてください。
「一言で言えば、脈のリズムの乱れです。
心臓は電気信号で体のリズムに合わせ拍動しているのですが、加齢による老化や高血圧・糖尿病といった生活習慣病などがあると、電気信号が乱れてしまうことがあります。その結果、体は休んでいるのに心臓だけ激しく動いたり(頻脈、脈拍が1分間で100回程度以上)、逆に非常に遅くなってしまったり(徐脈、1分間で60回程度以下)、リズムがバラバラになったり(期外収縮)するのです。
放っておいて大丈夫なものもありますが、命に関わる不整脈もあるので、注意が必要です」
――怖い不整脈とは。
「突然死につながる『心室頻拍』『心室細動』や、重篤な脳卒中を引き起こす『心房細動』などです。特に心房細動は、加齢とともに誰にでもなる恐れがあり、80代では10人に1人が発症しています。
ちなみに、野球の長嶋茂雄さん、サッカー元日本代表監督のオシムさんも、心房細動が原因の脳卒中で倒れたと言われています」
――なぜ心房細動から脳卒中に?
「『心房』は全身に送り出す血液を一旦溜める役割を持っているのですが、心房細動が起こると心房がブルブルと細かく震える状態になり、血液を外に送れなくなります。その結果、血液が淀んでしまい、血栓(血の塊)ができやすくなってしまうのです。
そこでできた血栓が動脈に送り出されてしまうと、脳まで運ばれて、脳内の血管を詰まらせてしまいます。
一般に、心房細動が48時間以上続くと脳卒中が引き起こされやすくなると言われています。
脅すわけではないですが、心房でできる血栓は大きいため、脳卒中が重篤化しやすい特徴があります」
抗凝固薬で脳卒中を予防していく
――診断はどのようにするのですか?
「心電図検査が基本ですが、自覚症状がある人とない人がいて、健診で発見されてびっくりされる方も多いです。
残念ながら、脳卒中を起こして初めて心房細動だったと分かる人もいます」
――治療はどういうものを?
「方向性は2つあります。
一つは心房細動自体の治療です。心房細動は心不全につながりやすいので、脈が安定するように薬物治療を行います。アブレーションという手術もありますが、一般的には投薬が基本です。
もう一つは、脳卒中を防ぐための薬物治療です。血液をサラサラにし血栓をできにくくする『抗凝固薬』を用います。
実は、この抗凝固薬で、良い薬が出てきています。これまではワーファリンという薬が一般的だったのですが、新たに広まってきているNOAC(ノアック、関連薬の総称)は、処方量が明確で副作用が少ないなど、扱いやすいメリットがあります。
循環器が専門ではない開業医も比較的容易に処方できるので、普及すれば脳卒中が減るはずと期待しています」
――デメリットは?
「まだ高価なこと。それと、薬の効果が短いので、毎日適量を必ず飲まないといけないことがあります。
心房細動は脳卒中を起こすリスクが健康の方の5倍と言われていますが、きちんと服薬すれば、リスクを健康の方とほぼ同等にできます。
しかし、NOACは、飲み忘れると、その日は薬の効果がまったくない状態になってしまいます。
高齢社会で独居の方が増えている実情もあり、どうしても服薬がルーズになりがちです。周囲の方々が意識して、「薬飲んだ?」とサポートしていけるといいと思います。
特に、▼糖尿病、▼高血圧、▼高齢、▼心不全の既往がある、▼脳梗塞の既往がある、という人は、リスクが高いことを自覚してほしいです」
心房細動の早期発見は健診と脈の計測から
――心房細動は予防できますか。
「食事内容や過度の飲酒などに気をつけ、健康的な生活を送ることが大事です。
ただ、心房細動は老化現象とも言えるので、ご高齢者なら誰でもなる可能性があります。脳卒中を起こす前に、早期発見が大事です。
そのためにも、定期的に健診を受けること、それから、時々は脈も測ってみてほしいと思います。手首の親指の延長にあたる部分を、指3本で触れると良いでしょう(上写真の米良先生の格好)。
1分間の脈数は60~100回が目安。
リズムもみてください。心房細動の場合、脈が『ドドッ、ドドッ』などとバラバラに乱れる特徴があります」
――心房細動への島村記念病院のアプローチは。
「心エコーやホルター心電図などで、ある程度しっかりした検査ができます。
また、院長が糖尿病の専門医なので、生活習慣の面からサポートしていくことも可能です。
それと、万一脳卒中を発症してしまった場合、リハビリも充実しています。地域密着の病院ですので、気軽にご利用いただければと思います」
【取材協力】
島村記念病院