介護が必要になった原因の第1位であり続ける脳血管疾患。その主な疾患の脳梗塞は、高齢になるほど発症リスクが高く、日頃から予防していくことが重要です。
そこでこのほど、この地域の救急医療の要・公立昭和病院の神経内科部長・本間温先生に、脳梗塞をテーマにお話を伺いました。
死因4位、要介護4・5の30%を占める脳卒中
――脳梗塞について教えてください。
「血栓(血の固まり)や狭窄によって脳の血管が詰まり、その先に酸素などが供給されなくなって脳の組織が壊死する状態を脳梗塞といいます。
脳の血管の病気としては、血管が破れる脳出血やくも膜下出血もあり、脳梗塞と合わせて『脳卒中』といいます。そのうち、発症数は6割以上が脳梗塞です。
これらの脳血管疾患は日本人の死因の4位と多く、さらに、一命を取りとめても後遺症が残りやすい問題があります。脳血管疾患は介護が必要になった原因の1位で、その率は20%以上。
特に、要介護4・5では30%以上と断トツの1位です。
また、認知症やパーキンソン病につながるケースも少なくありません」
脳梗塞のタイプ
――脳梗塞には種類があるそうですが。
「血栓のでき方などで、幾つかタイプがあります。
代表的なものの一つは、脳に栄養を送る血管が動脈硬化を起こし、悪玉コレステロールが固まってできるプラーク(またはアテローム)が血管内で大きくなってしまう疾患です。血流を阻害するうえ、さらに何らかの原因で壊れると、そこで血栓が作られ、血流を完全にふさいでしまいます。このタイプの脳梗塞を『脳血栓症』といいます。
15ミリ以下の微細な血管が狭窄するラクナ梗塞もこのタイプです。
また、脳から遠い所でできた血栓が動脈を伝って運ばれきて脳の血管を詰まらせる『脳塞栓症』というタイプもあります。不整脈の心房細動によってできた血栓が運ばれてきて起こる『心原性脳梗塞』が代表的です。
このほか、血行不良により血管の末端部で起こる脳梗塞もあります。
いずれも、原因となる動脈硬化や心房細動は高齢者ほどなりやすく、だれもに注意が必要です」
突然の片マヒがあれば即救急病院へ!
――発症した場合、どんな症状が出ますか。
「比較的多いのは、片マヒや失語症が突然出る症状です。急に片手だけ力が入らないなどの症状が出たら、病院に直行してください。
一つ注意が必要なのは、脳血栓症の場合、「TIA(一過性脳虚血発作)」という前触れ症状が出ることです。
表のような症状が突然出るのですが、数分から10分程度で一度治まります。これは、詰まった血栓が血中に溶けてまた血液が流れ出すという現象なのですが、大抵、早ければ直後、場合によっては数日後にもっと強い脳梗塞が引き起こされます。
『気のせいだった』とやり過ごしてはいけません」
発症から6時間以内が重要
――治療はどのように?
「急性の場合は、発症からの時間が重要です。
発症から4時間30分以内の場合は、『t―PA静注療法』という、血栓を溶かす治療ができます。
これがうまくいくと、予後がかなり良いです。中には後遺症がほとんどなく、すたすた歩いて退院される方もいます。
ただ、強い薬のため、一定条件を満たしていないと、かえって出血などのリスクを上げてしまう面もあります。
では、これができない場合ですが、発症から概ね6時間以内なら、特殊なカテーテルによる血管内治療を行います。血栓を機械的に除去するのです。これは昨年、幾つかの臨床試験で「有効」と治療効果がはっきり示されています。
とはいえ、脳神経が壊死した後では意味がないので、やはり発症後6時間以内というスピードが求められます。
この時間を超えると、もはや詰まった部分への対処はできず、治療目的が再発予防に切り替わります。点滴で投薬し、新たな血栓を防ぐのです。
ともあれ、急性期の治療においては、発症からの経過時間が非常に重要です。
万一発症した場合は、一刻も早く救急病院にかかるとともに、発症時刻を医師に正確に伝えるようにしてください」
いま、求められる“予防”
――やはり気になるのは後遺症です。
「その出方は、人によって違います。
重度では、寝たきりで話もできないケースもありますし、体を動かせても半身にマヒがあったり、中には嚥下障害が出ることもあります。誤嚥からの肺炎のリスクが高くなるので、場合によっては一時的に体に管を入れて栄養を取れるようにすることもあります。
どんな後遺症であれ、少しでも良い状態を保てるように、リハビリが重要になってきます」
――脳梗塞を防ぐことはできますか。
「原因となる動脈硬化や心房細動を防いでいくことが大事です。どちらも、高血圧、高血糖、脂質異常症、糖尿病にならないように注意し、一つでも該当するならしっかりコントロールすることが重要です。そのためにも、適度な運動と塩分を控えたバランスの良い食事を心がけてください。
また、喫煙や過度の飲酒は控えてほしいです。ストレスも要注意です。
体の状態を知ることも大切です。動脈硬化は脳ドックで簡単に調べられますから、気になる方には受診をお勧めします。
それと、脳梗塞は再発しやすい病気です。発症された方は、きちんと通院し、薬を飲み、二次予防することも大切です」
【取材協力】
公立昭和病院