寄 稿
彼女たちに会ったのは、3・11から2度目の夏を過ぎたころだったように思う。
私は福島の悲しみに対して何か役に立てることはないかと模索していた。彼女たちは福島県や神奈川県などの放射線の高いところから幼い子らをつれて避難し、山梨県に移住してきたという。
その日は福島支援のためのバザーをしていた。
「一緒に何かやりませんか」と声をかけた。何か、と言っても私には演劇しかないんだけど。
そして、去年、その母子と一緒に甲府でミュージカルを創った。
彼女たちと過ごしていて私は、「世に放射能に効く薬はないけれど、演劇は『効く』」と確信した。やる側も観る側も元気が出る!
地元の公演にも出てもらうことに
それで今年は、西東京市保谷こもれびホールで公演する「平和を祈る演劇祭」(30日・31日)に出てもらうことになった。我が敬愛する井上ひさし先生の「貧乏物語」に。
プロの女優さん二人に力を借り、のびやかに稽古をしている。
乳児から大学生までの母親たちは、休憩時は、子育て悩み相談や授乳タイムとなる。そのなかのひとり、りかさんはお話とピアノがとても上手なので、演劇祭の前の17日に、私が演出する芝居「レイチェル・カーソン物語」のピアノ演奏と、講演をしてもらうことになった。
メルトダウンしたと外国のテレビBBCで見た時の生きた心地がしなかったお話など、胸を打つ。
人間の尊厳こそ、演劇で見せたいこと
原発事故により、子どもの健康だけを願い、何もかも捨てて人生をもう一度はじめなければならなかった彼女たち。稽古をしているとき、そこに私は決して何ものにも奪われることのない人間の尊厳を観た。
それは、才能の優劣でも、ましてや貴賤でもない。その人の想いと言葉と行いによりあらわれる輝きだ。
その輝きこそ演劇で伝えたいこと。
17日「レイチェル~」は午後1時から「まったなしスタジオ」(西東京市田無町6の3の8の2F)で、30日「貧乏物語」は午後1時からこもれびホールで上演です。観に来てください。
なお、「貧乏物語」も演目の一つの「平和を祈る演劇祭」は、30日・31日、同ホールで開きます。計8公演(5演目)です。
別役実作「猫貸し屋」では、常田富士男さんが語ります。全演目共通チケットは1000円(高校生以下500円)です。詳細は大森さん(0422・55・0168)まで。
(※編集部注 イベントは終了していますが、地域情報として掲載を継続しています)
(ナガノユキノ 演出家、西東京市在住)